日本の木造建築研究の歴史は、受難の道のりでした。
伊勢湾台風被害を契機に、1959年、日本建築学会が「防火・台風水害のための木造禁止決議」を可決し、都市・建築の不燃化への取り組み、台風被害、鉄筋コンクリート造、鉄骨造の増加などの社会背景により、木造建築の研究は建築界ではほとんど行われなくなりました。しかし、その後も木造建築の耐震性に関する研究は杉山英男博士を中心に推進された結果、東京大学大学院農学生命科学研究科生物材料科学専攻（当時；農学部林産学科）の木質材料学研究室でその学術的研究は継承されてきました。

現在、上述の木質材料学研究室では、「木質材料・木質構造・木造建築・環境問題」等をキーワードに、持続可能な建築材料である木材の活用について多角的な取り組みが行われています。主なテーマは木質材料の開発、リサイクル利用、木質構造デザイン、木造建築構法開発などです。また、毎年本郷・弥生キャンパスで開催される五月祭では、研究室の学生達が全員で参加する設計コンペを行い、セルフビルドで実際に製作するパビリオンがあります。毎年ユニークなアイデアが打ち出され、造形的にも魅力的な作品が生み出されてきました。

今年の五月祭で展示される予定の作品を中心に、研究室の活動をギャラリー5610にて展示いたします。屋外展示では、コンペの受賞作品を、室内展示では、木質材料・木質構造・木造建築の研究最前線をご覧頂けます。また会期中、トークセミナーも予定しておりますので、こちらもお楽しみに。

なお、屋外の展示作品は天候により組み立て状況に変化がありますので、あらかじめご了承ください。
 


＜トークセミナー＞
6月5日（土）14:00～15:30
解説　安藤直人教授

6月9日（水）18:00～19:30
解説　稲山正弘准教授 
要予約（tel：03-3407-5610/e-mail：gallery@deska.jp）

一般：￥1000／学生：￥500
 


＜東京大学 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 木質材科学研究室プロフィール＞

木材は再生可能で環境に対する負荷が少ない生物材料であり、また、木材を利用することは二酸化炭素の貯蔵につながり地球温暖化防止にも役立ちます。木質材料学研究室では、この木材を最大限に有効利用することを目指して、基礎から応用までの一連の研究を進めています。
木質材料分野においては、従来用いられていなかった低品質の木質系素材、草本系素材、住宅解体材として出てくる木材などから新たな材料を開発することを行っています。ペットボトルなどプラスチック系廃棄物との複合化なども試みています。
このような組み合わせには無限の可能性がありますが、そこに新たな構成原理を見出し、理論的に材料開発の道筋をつけようとしています。また，建築部材として利用される木材の乾燥方法に関する研究も重要なテーマとして扱っています。
木質構造分野においては、木質構造物の設計やその構造安全性，耐久性向上のための研究が大きなテーマです。正しい設計を行えば、木造建築は十分な耐震性能、耐火性能が得られることが分かっています。その体系化に向けた実験研究やコンピューターによるシミュレーション、新たな構法開発や伝統的な仕口・継手の力学的モデルを用いた剛性および耐力の推定などを行っています